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若冲散歩

十年来、大ブームの江戸時代の天才絵師、伊藤若冲。生まれ育った京都の台所「錦市場」を散歩した。

 

日没過ぎの錦市場。390メートル続くアーケードは、若冲一色。この市場のどのあたりに、若冲が若旦那として切り盛りした青物問屋があったのだろう。

 

家業を継いだのは23歳。そして40歳の時、弟に店を譲り、絵に専念した。各店の閉まったシャッターに、若冲の有名な絵が印刷されている。

 

この青い絵のホンモノは、『鳥獣花木図屏風』。アメリカの大コレクター、エツコ&ジョー・プライス夫妻のもとにある。ジョー・プライス氏は、若い頃、若冲が初期に描いた葡萄の水墨画に出会った。この青い屏風は、2006年、東京国立博物館ほかで行われた「プライスコレクション 若冲と江戸絵画展」にも海を渡って出展された。

 

私はこの展覧会に仕事で関わり、それが若冲との衝撃の出会いだった。この屏風は、18世紀の同時代に類を見ない、不思議な表現技法が特徴だ。画面全体が、1センチ角の枡目にわけられて、色が塗られている。まるで、モザイクタイルの壁や、デジタル画のよう… 桝目描き(ますめがき)と呼ばれている。

 

若冲はこのアイディアをどこで思いついたのだろう。織物を作るときの図案とも、朝鮮半島の工芸品「紙織画」とも言われている。美的センスがずば抜けていた若冲。どのような着物をまとい、どのような工芸品に囲まれて生活していたのか。そしてどんな気分で、この市場を闊歩していたのだろうか。